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春の多摩湖探訪 Part 3
-早春の風に揺れる、森の妖精たち- |
写真・文 森の人 泉 健司
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■絶滅に瀕している植物たち さてと、今回からは、位置情報はいっさい御法度。したがって、お話もきわめて気ままに前後しながら進みます。と、言うのはね、むかぁし昔の悲しいお話を思い出したからなのさ。 昔千葉のある所で、団地開発の予定地にカタクリの大群落が見つかったと思いねえ。早速保護運動に乗り出した人たちがいたのは良いけれど、それが迂闊にも新聞で紹介されてしまった。すると、「ど〜〜せ開発されちゃうんだからねぇ」なんて言いながら不埒ものたちが押し寄せて、カタクリを全部盗んでいってしまったとさ。おかげで、保護活動は頓挫。開発は滞り無く進められましたとさ。やれやれ。 で、まずはこの植物から。タマノカンアオイ。いわゆるカンアオイとの違いは、葉の表面がしわしわなこと。地味ですねえ。多摩丘陵あたりにしか分布していない変わり者。花も落ち葉の下で、真冬に咲いて、しかも黒っぽくて目立たないと言う、分布を広げるにも百年で1mと言われている。 これはもう変わってるを通り越して一種偏屈とでも言いたいような植物。それでも立派に?盗んでいく奴らがいるのには困ってしまう。環境省のレッドデーターブックにも「絶滅危惧II類(VU) 絶滅の危険が増大している種。現在の状態をもたらした圧迫要因が引き続き作用する場合、近い将来「絶滅危惧I類」のランクに移行することが確実と考えられるもの。」とされている。 |
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自然保護の難しいところは、こういう「大切にね」って言ってもピンと来ないような生き物がやたら多いことだとも言える。一般の人たちに「何でこんなのが大切だって騒ぐんだろうっ?」って思われやすいのだ。だから良く、「オオタカを守ろう」だとか「カワセミの棲める川」だとか、「蛍のいるビオトープ」だとか、そんなキャンペーンが横行することになる。問題は、じゃあカワセミを連れてくればいいのかと言えば大間違いで、カワセミが暮らしていける環境全体を守ることこそが大切なのだというところ。つまり、カワセミは守るべき環境全体の象徴なのだ。ところが実際には、そう言う地道なところは忘れられて、キャンペーンだけが華やかに一人歩きする。そんなこともままあるのだ。
かつてある博物館にビオトープが造られたとき、「ムサシトミヨがいる」と言うのが売りだった。関東一円の湧水池にしか生息しない魚で、高台にある敷地にふかーい井戸から水をポンプで汲み上げてでっち上げた流れに放しているのだ。停電したら、ひとたまりもない。どこかの博物館経由で「合法的」に取り寄せられた魚だから、まあ、何というか、そんなこともまかり通るくらいなのだとしか言いようがないけどね。やれやれでんがな。 ちなみに狭山湖周辺に生息している猛禽類の種類と密度には、結構馬鹿に出来ないものがある。ノスリ、オオタカ、ツミ、ハイタカ、ハヤブサ、トンビ。まだいるらしい。僕もノスリが林の中でネズミを捕らえて飛び立つところを、ほんの5mほど先のところで目撃したばかりだ。飛び立つと、そのすぐ後をカラスが追いかけていった。残念ながら写真はない。スイッチをオンしてからスタンバイまでの間に飛び去っちゃったよ。こんな時は、やっぱり光学カメラにはかなわないねえ。くやしいなあ。 |
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■早春の風に揺れる、森の妖精たち | ||||
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「えらい場所を見つけちまったぜ」っていうのが、そのときの感想。氷河期生き残りセットとでも申しましょうか、見渡す限りカタクリとヒロハアマナが群生しているんだから。ここは今までにも何度と無く歩いた場所なのに、痕跡さえ見つけることが出来なかった。「まるで夢を見ているようだ」とは良くある言い回しだけれど、本当に信じられない気分だった。もう2週間も早ければ、やっぱり発見できなかっただろう。こんな場所をマニアに知られたら、ひとたまりもないんだよね。 この画像を公開するのも迷ったくらいなんだけど、この記事がみんなの目に触れる頃には球根だけが地下に眠っているはずだから、まあ大丈夫だろうと言う判断なのだ。それほど短期間に花を咲かせ、実を付け、球根を太らせて、あっという間に休眠に入ってしまう。新緑の頃には、もう跡形もない。 氷河期の短い春に巧みに生活サイクルをあわせた植物たちなのだ。氷河が後退していって、この場所にとりのこされ、気の遠くなるような時間をここで暮らしてきた植物たちなのだ。何年もこのあたりに調査に来ていても、徐々に調査時期をずらしていって、ついに花の時期にぶちあたったのはここ2年と言ったところ。 過去の記録にはカタクリの名が明記されてはいたものの、半信半疑だった。まあ、あってもおかしくはないエリアなんだけどね、まさかこんな規模の群生地があるとは想像していなかったぐらいだ。都内でもおそらく1、2を争うんじゃあないかなあ。なんとしても守り通したい場所の一つだ。 |
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氷河期の生き残りであるこの植物は、北に行くほど普通に見ることができるが、東京ではごく限られた所にしか残されていない。早春の一時期だけ葉と花を伸ばしあっという間に結実して、新緑が広がり林内が暗くなる頃にはもう枯れている。残りの時期は地中の球根で過ごすのだ。これは厳しい氷河期の頃に身につけた生活のサイクルを、かたくなに守り続けているためだ。 ちょっと悪戯心が起きて、ここから画像を送ってみることにした。いや、携帯だのなんだのからじゃあ、やっぱり通信費がたまらないから、ほんの1枚だけ軽目のデーターを。植物好きな友人に速報とか言って画像を送りつけて、うらやましがらせてしまった。ふふ。 |
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ヒロハアマナは日本の野生のチューリップ。摘んで食べると、ほのかに甘い春の山菜でもある。これも氷河期の生き残り。雑木林の手入れをしなくなると消えてしまう。アズマネザサがはびこると、カタクリと同様の短い光合性の時期を逃してしまうからだ。 これでギフチョウが生息していれば氷河期の生き残りの生物層の御三家がそろう訳だが、残念ながらいないようだ。 |
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チョウチョの写真は、ファインダーで覗く光学カメラではなかなか難しかったんだけれど、デジカメでは驚くほど簡単に撮ることが出来た。ファインダーだと体ごと近づかなくてはならないので、すぐ逃げられてしまう。で、しかたなく高価で重い望遠レンズを使っていたのだ。その点デジカメは良いねえ、軽いから液晶画面を見ながら片手に持ってチョウに近づけていけばいいのだ。うまくすると、数センチの所まで近づけて撮ることが出来る。 |
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次回は ■散策はまだまだ続く お楽しみに! |
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