絵本にでてきた庭。

取材・文 藤田 幸子


再現された煉瓦の噴水
 
もしあなたがこれから手を入れようとしている庭で、噴水池の跡が偶然に見つかったとしたらどうだろう。そして100年前に描かれた美しい絵本のなかに、まさにその噴水池が描かれているのを見い出したら・・・きっと、感動せずにはいられないだろう。
 
 
オープンエアーのティーパーティ   前庭の全景
 
テニスをしませんか。というお誘いを受けて、日曜日の午後に郊外の知人宅へ行った。おりしも全英オープンテニスの決勝戦が行われていたウインブルドンを横切り、クルマで走ること30分。テニスコートまである広大な庭をもつカントリーハウスに到着した。テニスコートがあることは聞いていたが、完璧に手入れの行き届いた、ゴルフさえできそうな美しい芝生の庭を前にして、私は唖然としてしまった。家族5人が暮らすのに、こんなにも広い庭を、いったいどういう風にして毎日整えているのだろう、とも思った。
 
この家の主な管理者は奥さまで、私が庭を褒めると、とても楽しそうにいろいろ説明してくれた。咲き乱れる色とりどりの花は、整い過ぎないように植えられ、庭のもっとも奥に置かれたベンチからは、特にワイルドな景観が楽しめる。家の外壁につたわせたクレマチス、枯れた木を支えに咲く鮮やかなバラ。つぎに手を入れる予定の古池には、日本庭園風に橋を架けるのだとか。キッチンの出入り口近くには、たくさんのハーブ。しかしなんといっても驚くのは、庭の中央にある噴水池。それには「物語」が秘められていた。
 
日本庭園風の池を造る予定地
 
    庭に咲き乱れる野生の花
 
夫人と絵本との感動的な出会いは、土に埋もれていた噴水池を偶然見つけた直後のことだった。彼ら家族がここにこしてきたのは3年前。当時は家も庭も荒れ放題だったが、夫人は家と庭をせっせと手入れし、この家の前の住人のことなども調べた。そして2代前の住人が著名な女流画家であることがわかり、たまたま開かれた彼女の絵画展で、偶然に出会った人からその絵本を譲り受けた
 
 
庭が登場する絵本   噴水が登場するページ
 
絵本の作者は、100年以上前の、当時その家に住んでいた別の画家で、絵本は彼が名づけ親となった女流画家の娘のために作られたものだった。絵本のなかに出てくる風景の大半はその家の部分部分をモデルに描かれている。「少女」が座る窓辺も「博士」が歩く小道も、井戸も、噴水も。夫人は、描かれている噴水を見たとき、自分は「ほんとうに興奮した」と語っていた。 噴水池は、その後の住人が、彼ら自身の庭を造るために埋めてしまったのだろう。夫人は土の中に組まれた煉瓦の片鱗があることに目をとめ、そこを掘り出して、それが正方形に組まれた池であることを確認した。水を吹き出す支柱は新しいものをつけたが、池はほぼ以前の形を取り戻している。私は尋ねなかったが、彼女が噴水池を再現しようと決めたのは、もしかするとその絵本に出会ったからかもしれない。発掘された噴水池は、いまではすっかり蘇り、爽やかに水を吹き出している。輝くばかりに美しい芝生を背景にした水飛沫は、午後の豊かな時間をさらに贅沢なものにしてくれた。
 
 
庭の奥は野性味のある草原
(敷地内)
  ゴルフ場のように
美しく広がる芝生


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