スイス・ベルナーオーバーラントの四季
〜冬から春へ 〜
取材・文 岩井 京子

熊ねぎ--葉の柔らかいものはニラの代用品、おそらくこの方が美味。

 
スイス・アルプス、登山家やアルピニストのみならず、多くの人を魅了して止まないスイスの山々。険峻な峰、荒々しい山肌、男性的な一面とは裏腹に、アルプと呼ばれる裾野に広がる牧草地ののどかな風景や山あいにひっそりと咲く高山植物群は、私達に何物にも代え難い安らぎを与えてくれる。人間の存在を遙かに凌駕する自然の完璧な姿は見る者を深い感動で包んでしまう。

スイスの人が誇りと親しみを込めて呼ぶベルナー・オーバーラント、スイスのちょうど中央に位置するベルン州、そのベルン州にある山岳地方を意味するこの言葉に代表される地域は、美しい山と緑の谷、エメラルド色の湖、そして夏の間ゼラニュームをふんだんに飾ったシャレーとそこに住む純朴な人々、全てが一つに溶け合って、またとない居心地の良さを作り出している。
 

@最近は浸食が激しいといわれる氷河、谷の向こうに白っぽく霞んでいる部分がそれ。 Aグリンデルワルトのシャレーホテル。 Bどこまでも続く草原、思わず深呼吸したくなる。 C小さな村で見つけた民家。

 
二つある湖はブリエンツ湖とトゥーン湖。大昔一つだった湖は、氷河期に起こった大地の移動でちょうど二つに分断され、そこにインターラーケンの町ができた。二つの湖の一つ、トゥーン湖の北側は見晴らしのよい高台が続く。遠くにユングフラウ・メンヒ・アイガーの三山をはじめ、アルプス独特の切り立った峰の連なりを望み、四季折々、絶え間なく彩りを変えながら自然の美しさを堪能させてくれる。

冬はスキーリゾートを近くに抱えるだけあって、雪が多い。深々とした森を歩くと、綿菓子のような雪をかぶった樅の林がどこまでも続き、足音さえも吸い込まれていくようなこの世のものとも思われない静寂が広がる。時折、袖を広げたような枝にしがみついていた雪が自らの重さに耐えかねるように枝全体を揺すりながらどさっと落ちる。小ぶりの枝に残っていた雪も半テンポ遅れてパラパラと宙を舞いながら散っていく。こんもりと雪に被われた大地の割れ目から小川のせせらぎが聞こえる…

春を告げるのは降る雪の重さ。さらさらの粉雪が水分を多く含んだ春の雪に変わる。水場の近くには人々が熊ネギと呼ぶ、ニラとニンニクの合いの子のような香りの葉が群生している。もう少し暖かくなると白い可憐な花が解けてしまった雪の代わりに一面を被うだろう。林の間の山道を登ると道ばたにはふきのとうが顔を出す。

万年雪が晴天の空にまばゆく映える頃、人気(ひとけ)のない山道を車でひたすら上り、更に小さなロープウェイで、それも管理事務所に「これから乗りたいから動かしてくれ」と電話してその都度動かしてもらう小さな小さなロープウェイでクロッカスの花が広がる牧場にたどり着く。快晴の空に映えるユングフラウは端麗で、それでいてとても身近な親しみを抱かせる。4000メートル級の、スイスアルプス10番目の高峰にしては、今日はずいぶんと気前がいい。
 

D正面右手に見えるのは、別名トゥーン富士と呼ばれるニーゼン山。 E柔らかな早春の日差し。こんなに近くでユングフラウを独り占め。 F撮影したのは4月15日。柔らかな大粒の結晶 Gグリンデルワルトから見たヴェッターホルン。



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